氷見冤罪 県に賠償命令 捜査は違法 富山地裁、1966万円
国への請求は棄却
富山県氷見市の冤罪強姦(えんざいごうかん)事件で再審無罪となった柳原浩さん(47)が、国や富山県などに約一億円を求めた国家賠償請求訴訟の判決が九日、富山地裁であった。阿多麻子裁判長は「取り調べで虚偽の自白をつくり出した」と県警の捜査を違法と認め、県に約千九百六十六万円の支払いを命じた。一方、国への請求は棄却した。柳原さんの自白が虚偽と判断できる状況ではなかったとして、起訴した富山地検の判断を違法と認めなかった。
原告弁護団によると、再審で無罪となった冤罪被害者に国家賠償を認めた判決は三件目で、誘導的な取り調べを違法と指弾したのは初めてとみられる。過去二件はいずれも二審で覆り、敗訴が確定している。
判決は、県警による取り調べで、柳原さんに犯行状況を説明させるため、捜査員が納得できる答えが出るまで同じ質問を続けたことを「不当な誘導で回答を押しつけることと変わらない」として違法と判断した。原告弁護団は「これまで見過ごされてきた取り調べの誘導に、違法性を指摘した」と評価した。
また判決は、県警の取り調べについて「心理的圧迫を与えた」とも認めたが、暴行や脅迫などの違法行為はなかったとして、自白の強要は認めなかった。
このほか、県警が被害者に複数の写真の中から犯人を選ばせた手法にも「捜査員による暗示や誘導の危険性が排除されているとはいえない」と指摘。被害者に、柳原さんが犯人かを確認させる「面通し」の手法にも「(警察官から)原告が犯人という示唆か暗示を受けた可能性を否定できない」とし、いずれも「違法となり得る」と問題視した。
アリバイを示す通話記録を県警が無視したとする原告側の主張は「柳原さんが取り調べ中にアリバイを主張した証拠がない」と違法性を認めなかったが、違法な捜査で柳原さんが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負ったことは認定した。
当時の捜査員と検察官への請求は「国賠法は公務員個人の賠償責任を規定するものではない」として退けた。
(中日新聞より)