若者に増える「現代型鬱病」 患者本人に強い自己愛傾向 企業にストレスチェック義務付け
職場のストレスが原因の鬱病など、精神の障害を訴えるケースが増えている。中でも若者に多く、急に抑鬱などの症状を訴えて欠勤するといった、いわゆる「現代型鬱病」(新型鬱)の増加が目立つのが最近の特徴だ。厚生労働省が今年12月から事業者に職場のストレスチェックを義務付けるなど精神衛生面での環境改善の動きが高まっており、現代型鬱病についても実態の解明や治療法の確立が迫られている。
強い自己愛
厚生労働省によると、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償は、平成25年度は請求件数が1409件と過去最高を記録し、平成16年度(524件)の3倍近くになった。原因は「仕事の内容や量の激変」「ひどい嫌がらせやいじめ」「悲惨な事故、災害の体験」などで職場にさまざまなストレスが潜んでいることがわかる。
こうした状況の中で、10年ほど前から関心が高まってきたのが、「現代型鬱病」だ。
25歳の男性Aさんは、商社の総務課に勤務して2年目。真面目な勤務態度だったが、書類作成のミスが何回かあり、上司から「集中力が低い」と指摘されると、「叱責された」と強く反応し、呆然(ぼうぜん)としてしまった。その後、不眠になり、出勤が怖くなってしまった。
Aさんは、「自分は優秀」などと思い込む自己愛の強い性格。典型的な現代型鬱病とみられる。日本産業ストレス学会常任理事でみずほフィナンシャルグループ関西統括産業医の廣部一彦医師は、「大学では成績が良く、就職するまでほめられるばかりだったため、激しく落ち込んだのでは」と分析する。
現代型鬱病の場合、患者本人に自己愛が強い傾向があり、一方的に「職場や上司が悪い」と決めつけてしまう。自ら鬱病と医師に主張するケースもあり、短期間に再発を繰り返すこともある。休職中に無断で海外旅行に行くなど自己中心的な行動をとることもある。
廣部医師は「従来型の鬱病と違って投薬の効果が少ないので、対応はカウンセリングによる社会復帰の支援という形になります。産業医として長く勤めていますが、メンタルヘルス相談はここ7、8年は若者が多く、現代型鬱病がかなり増えています」と話す。
休日は元気
専属産業医で構成する「サンユー会」が、約50社、約33万人の会社員を対象に行ったメンタルヘルス不調による長期欠勤者の実態調査(平成18~20年)によると、1カ月以上の休職者発生率は男性が約0・6%、女性約0・4%で、女性は圧倒的に20~30代が多かった。職場の看護職らに相談するケースも飛躍的に増えている。廣部医師は「職場の人間関係が希薄になり、若い社員ほど職場に疎外感があるなかで、相談しやすい看護職を活用し、社内カウンセリング制度を充実させることが必要でしょう」と話す。
こうした現代型鬱病の治療について「職場のメンタルヘルス」などの著書で知られる、精神科医の藤本修・おおさかメンタルヘルス研究所代表理事は「従来型の鬱病より若い世代に多く、職場では抑鬱気分、意欲低下などの症状を訴えるものの、休日は元気なケースもあります。自己中心的な行動に見えても、診察すると実際に悩み苦しんでいます」と説明する。
自信満々のようで、実は他人の評価に過敏で不安になる、という精神的な背景が共通してあり、本人の特性、能力を整理して自覚させるような形の心理療法をはじめ、効果を見極めたうえでの抗鬱剤投与など薬物療法も行う。「鬱病の若者が増えた背景として、学校教育など社会的要因も考えたうえで、周囲の正しい理解も不可欠」と話している。
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【ストレスチェックとは】
改正労働安全衛生法の施行に伴い、今年12月1日から、労働者のストレスによる心理的な負担を把握するため、事業者に1年に1回、検査を義務づける。チェックには、厚生労働省が標準的な調査票として作成した「職業性ストレス簡易調査票」などを使用。その結果を本人に通知し、精神面でのリスクを自ら早期発見してもらい、個人から事業者に申し出があれば、事業者が医師に依頼し面接指導する。事業者は医師から意見を聴き、休職など就業上の措置を取る。
(産経新聞より)