<接見交通権>公判中の捜索は違法、国に110万円賠償命令

2015-03-18

 ◇大阪地裁判決 捜索令状発付の裁判所の責任は否定

 大阪地検が公判中に拘置所の独居房を捜索し、弁護人宛ての手紙を押収したのは刑事訴訟法が認めた接見交通権の侵害だとして、男性受刑者(44)と当時の国選弁護人が計3300万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が16日、大阪地裁であった。佐藤哲治裁判長は「捜索は違法だ」として、計110万円を支払うよう国に命じた。捜索令状を発付した裁判所の責任は否定した。

 原告は2008年9月に大阪府柏原市のパチンコ店で起きた強盗事件などで起訴され、懲役10年の実刑が確定した男性と1審の国選弁護人の宮下泰彦弁護士(大阪弁護士会)。

 判決によると、男性は起訴内容を認めていた強盗罪について、10年2月の第5回公判で否認に転じた。大阪地検は10年7月、共犯者と口裏を合わせるなど証拠隠滅の恐れがあるとして、男性が勾留されていた大阪拘置所の独居房などを家宅捜索。検事の取り調べに対する不満などを記した弁護人宛ての手紙、弁護人が差し入れた公判での質問事項の書面などを押収した。

 判決はまず、弁護人との手紙などは「被告の権利を定めた憲法に基づいて、捜査機関に秘匿されるべきもの」と述べた。

 そのうえで、「原告が公判での防御準備を整えた時期の捜索で、独居房にはその書類が集積していると十分に予測できる」と指摘。捜査の必要性に比べて捜索は男性側の不利益が大きく、検察官が令状を請求したのは違法で、手紙などの押収により接見交通権を侵害したと結論付けた。

 一方、原告側は令状を発付した大阪地裁の裁判官の責任も訴えたが、判決は「裁判官が違法または不当な目的で権限を行使して発付したとは言えない」と退けた。

 大阪地検の北川健太郎次席検事は「賠償責任が認められたのは予想外だ。関係当局で判決内容を精査され、適切に対応されると考えている」とコメントした。

 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 勾留中の被告は弁護人との手紙やメモを拘置所の居室に保管せざるを得ず、捜索は憲法が保障した被告の防御権を踏みにじる暴挙。判決が違法としたのは当然だ。

 元東京高裁判事の門野博・法政大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 男性らの防御権を侵害しており違法とした点で妥当な判決だ。しかし、捜索令状を請求した検察官の過失責任を認定しながら、裁判官を免責した判断に整合性があるのか疑問も感じる。

 ◇接見交通権

 身柄を拘束された容疑者や被告が第三者の立ち会いなしに弁護人と面会したり、書類を受け渡したりできる権利。刑事訴訟法が規定し、秘密交通権とも呼ばれる。

 ◇「大阪地裁の責任の問題なし」に違和感

 大阪地検の捜索を違法とした判決は、地検の求めに応じて捜索令状を発付した大阪地裁の責任については問題にしなかった。

 捜査機関が家宅捜索や逮捕状の執行によって強制捜査をするには、裁判所の令状が必要だ。裁判所がお墨付きを与える形だ。裁判官は捜査側が示した資料を検討し、発付の可否を判断している。

 ただ、捜査の違法性が問題になった時、批判の矢面に立つのは捜査機関だけの場合が大半だ。令状を出す裁判官の裁量権は検察官や警察官より幅広く認定されてきたと言える。

 民事訴訟の最高裁判決(1982年)は裁判官の法的責任を認めるには「違法または不当な目的を持って、付与された権限に背く特別な事情があることが必要」とした。大阪地裁もこの判例を踏襲し、裁判官には検察官ほどの厳格な責任を求めなかった。

 しかし、令状の発付権限を裁判官に与えているのは捜査機関の暴走を食い止めるためでもある。問題の捜索は公判中で、対象は拘置所という異例の場所だ。裁判官はいつも以上に慎重な検討が必要だったのではないか。

 令状を請求した検察官の責任だけを認めた判決にはやはり、違和感を覚えざるを得ない。
(毎日新聞より)

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